桶の歴史

桶の歴史

桶の歴史は古く、天正10年(1582年)室町中期に書かれた多聞院日記に初めて「オケ」という名称が現れます。この「オケ」の登場によって当時、壺や甕で造られていた日本酒は、飛躍的に大量生産が可能となりました。
以降、酒造家が製材された桶の材料を買入れ、桶屋が加工していくというスタイルがとられ、秋になり本格的な酒造りの準備が始まる頃には、桶屋が叩く木槌の音がいたる所で聞かれました。
まず酒屋が地元の木で新桶を作り、20~30年後に酒桶としての寿命が尽きてくると、今度は味噌屋・醤油屋が買取り、更に30~150年使われる。こうして20~180年の寿命を持つ桶は何百年もの間、立派な循環型社会を形成していたのです。

しかし昭和25年(1950年)以降、酒屋は次々と木桶からホーロータンクに替えていきます。
木桶に比べて、微生物の働きをコントロールしやすいこと、管理・保管が容易であることなどが理由でした。
また、課税対象である酒を木桶に貯蔵しておくと自然に目減りし、欠減してしまうことを国税局が長年問題にしていたことや、「木桶は衛星的ではない」という保健所の見解も、木桶の衰退を加速させる一因となりました。
こうして、大きな木桶がずらりと並んだ蔵の風景は、博物館や時代劇のセットでしか見られない光景となっていきました。

「木桶」だからこその味わい

それからおよそ20年経った近年・・・スローが見直される社会気運のなか、種々の研究により木の良さが見直され、木桶が他の材質の容器より優れている点をもつことが判明しつつあります。
発酵食品分野でも、味噌・醤油・酢などの業界では、今でもいくつかの蔵で木桶が使われており、また、かの有名ワイン「ロマネコンティ社」も酒質のために木桶で仕込むなど、木桶でなければ作れない味わいがあると認められているのです。

肝心の日本酒業界はというと、平成18年(2006年)に「いまさら桶を考える会」が六本木ヒルズで盛大に開かれ、NPO法人 桶仕込み保存会が発足しました。
全国各地の酒蔵でも、この会の発起人であるセーラ・マリ・カミングスさん(株式会社桝一市村酒造場 取締役)の呼びかけに応え、蔵に眠っていた木桶を使ったり、新桶を作ったりと、様々な形で木桶仕込みが復活してきています。
新製品の開発や復古という一時のブーム的なものでなく、桶を中心とした「循環型社会」を志向していく動きが、今ようやく始まったのです。

(参考資料)
日本醸造協会誌・化学技術誌MOLより 上芝雄史氏
いまさら桶を考える会プログラムより セーラ・マリ・カミングス氏
桶仕込み保存会パンフレットより 太田英晴氏 セーラ・マリ・カミングス氏

木桶